179人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
そんな様子を眺めていた颯太の肩に林原がポンと手を置いた。
「お前の台詞、みんな取られちゃったな」
「なっ?! 何言ってるんだよ!」
颯太は顔を真っ赤にして林原に食って掛かる。それをどうどうといなす林原。
「お前もいつか神楽坂先輩の頭を撫でられるようになるといいな。今はお前が起こした不幸の処理という形でケツ拭かれてるだけだもんな」
「う、うるせえよ!」
「はは、まあ敵は強大だってことで」
林原は笑いながらお茶室から出ていく。澤田も颯太に憐憫の情のこもった視線を送りながら実験に戻っていった。
「何だよ、俺だって……」
病院でかけられた愛里の言葉を思い出す。
『でも、前回の事件で、君がもっと自分を頼れ、と言ってくれましたから、お言葉に甘えただけです』
颯太だって、愛里に頼りにされている、はずだ。
「比久羅間村、比久羅間村……。ああ、そういえば思い出した」
笹島が颯太の気も知らずにポンと手を打った。
「確か僕がまだ院生だった頃にバイトで行ったことがあったんだ。自然豊かで生態系も人の手がほとんど加わってなくてね。のどかな村だったよ」
「何のバイトだったんですか」
笹島に颯太が問う。
「環境アセスメントの補助だよ」
「へえ、そうだったんですか」
そうだったそうだった、と頷きながら笹島もお茶室を退出していく。
「比久羅間村か……いつか行ってみたいな。神楽坂さんに言えば連れてってくれるかな」
不幸が村に降りかかるのでやめてください、そんなことを愛里に言われる未来の自分が容易に想像でき、颯太はひとりで苦笑する。
「それでも、この不幸体質も捨てたもんじゃないかもな」
不謹慎だが、颯太の不幸のお陰で颯太と愛里の距離はぐっと縮まった。
「次は不幸じゃなくて純粋に幸せなことが起こればいいんだけど」
颯太もまたお茶室から出る。そして、扉の角に小指をぶつけ、しばらく悶絶するのだった。
第3章 裏切り者のカルテット・完
To be continued...
最初のコメントを投稿しよう!