第3章 裏切り者のカルテット

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――――  研究室内をグルグルと回る。  中高の理科室で見るようなビーカーやフラスコなどのガラス器具から見ただけではいったい何ができるのか分からない機械も研究室には散乱している。 「このCO2インキュベーターの中ではヒトの癌細胞などを飼っています。癌細胞は無限に増殖する細胞ですから、栄養の入った液体に浸しているだけで増えていきます。無限に増えるから実験に使いやすいんです」 「なんか怖いなあ。こっちの機械は?」 「ロータリーエバポレーターです。空気をポンプで吸い出して真空状態にし、溶媒を早く飛ばすための機械です」 「へえ、良く分かんねえな。これは?」 「遠心分離機。遠心力を使って比重の異なる物質を分離するための機械ですね」 「うわ。マイナス80度の冷凍庫だ!」 「生体サンプルなどはただの冷凍庫では劣化してしまいます。こうしてかなり低温にしてあげなければならないんですよ」 「本当かよ……大変だなあ」  何だかんだいっても愛里は丁寧に圭太に研究室に置かれている機器の説明をしてやっている。圭太は半分も理解していないだろうし、愛里もそれを承知しているはずだが、聞かれたことには律儀に返している。邪険にしていても、幼馴染みで仲が良かったというのは本当なのだろう。  扉を開け、隣の部屋へ移動する。 「この部屋は機器分析室です」 「分析室?」 「そう、私達の研究室の名前は天然物質“分析”化学研究室です。分析がメインのお仕事なわけです」 「分析っていわれてもなあ」  抽象的で分からないと言いたいのだろう。確かに、颯太も自身の研究室を簡単に説明しろと言われても困ってしまう。研究室のメンバーもひとりひとり異なる研究テーマを持っているため統一性がないのもあり、概説しにくいのだ。 「そうですねえ、この機械はやっぱりうちの主力ですね」  そう言って愛里が指差したのは、巨大な金属の塊のような機械だった。ゴウンゴウンと大きな音を立てている。  PCと繋がった複数の筐体が積み上げられた横には、巨大な円柱型の金属が細い線で繋がれている。円柱の直径は1メートル弱、長さは2メートルくらいである。ピカピカのボディはまるで巨大ロボットの腕のようだ。 「LC-MS/MS(エルシーマスマス)。質量分析器と呼ばれる機械です」 「はあああ、こんな車みたいな機械何に使うんだ」 「その名の通り、質量を分析するために使います」
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