第3章 裏切り者のカルテット

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――――  後日、警察は正式に宮越トモキと井槌アキラを食中毒事件の犯人であると断定し、逮捕した。  笹島は研究室のお茶室で新聞をガサリと畳みながらしみじみと言った。 「神楽坂さん、やっちゃったねー」 「やっちゃいましたねー」 「やっちゃったなあ」  颯太と圭太もまた苦笑いを浮かべている。  ステージの上でおよそ20分にわたる大演説。からの大騒ぎ。パトカー出動。もはやまるで優勝者が愛里であるかのような騒ぎだった。 「これはもう、やっちゃったとしか言いようがないですね、先輩」  とは、林原の言。 「ついにって感じだな」  とは、愛里の同期の澤田康介の言だ。  事件のあらましを聞いたふたりは一躍有名人になってしまった愛里が項垂れるのをニヤニヤと見下ろしていた。 「ああああ、やってしまいました……」  取材拒否によって新聞に名こそ出ていないものの、美人女子大生が華麗にステージ上で難事件を解決したとして、大々的に報道されていた。  メディアが元々ミスコンの取材に来ていたのがとても大きかった。 「私、どうしたらいいんでしょう」 「後日、警察が感謝状を贈るんだってねえ。まあ、いいことをしたんだから喜べばいいんじゃないかな」  笹島はポンポンと愛里の肩を叩いた。 「そ、そんなつもりはなかったんですが、つい……」 「努力を否定するような人達を許せなかったんですよね、神楽坂さんは」  颯太は愛里の気持ちがよく分かった。  彼女の行動力は突発的に発揮される。それは彼女の美点でもあったが、当の本人はそうは思っていないようだった。 「それはそうですけど、あんな衆人観衆の前で犯人を名指してしまったのは良くなかったと本当に後悔しています」 「どのみちふたりは20歳を越えていたから実名報道されていたよ。顔写真付きでね」 「でも、正義のヒーロー振って……あれじゃ吊し上げです」  愛里は頭を抱える。綺麗に整えられていたボブカットがぐしゃぐしゃと乱されていく。 「でも、最初に風評被害を生んだのはあのふたりだ。秋山が努力して作った農学部のシイタケを貶め、レイアに皆の前で恥をかかせた。目には目を、歯には歯を、勧善懲悪。それらが本当に正しいことなのかは分からないけれど、あれだけ大勢の人が愛里の推理を聞いて真実を知ったんだろ」  圭太が髪を乱す愛里の手にそっと自分の手を添えた。
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