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×××3月31日×××
ママ。
父に手を引かれて私は母の過ぎ去る背中しか見れない。なぜ母は去ったのかはわからない。母と父は愛し合い私を産んだ。もちろん、父はまだ母のことを愛しているようだった。それなのに二人が離れなければならない理由がある。それは今になってもわからないままだった。
父はまだ幼い私の頭を撫で、「必ずまた逢える」と笑顔を浮かべる。私は気づかないフリをしていた。幼い私にでもわかった。父の笑顔は無理な作り笑い。
父は母と離れたくなかったのだろう。それなのに父は母と離れる選択を選んだ。
行こう、成実。
父は私の手を引き、歩き出した。その肩が微かに震えた。私は横目で父を見た。父は目を閉じ、一筋の涙を流していた。
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