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深夜三時。焚き火の前に座り、揺らめく炎に瞳を宿す。成実の心境は炎の如く、憎しみに燃えていた。
幸せだった日々。
父との生活。
思い出はたくさんあるけど、全ては記憶の中だけにしかない。
そっと、思い出に触れようとも、握り締めようとも、思い出は砂のように指の隙間からこぼれ落ちる。
お父さん……?
父の笑顔が浮かんだ。何事も難しく考える父は心配性でもあった。そのため、門限にはうるさく、遊ぶ暇さえなかった。大五老師という政府のトップに君臨していても、父はプライドのない男だった。誰に対しても礼儀をわきまえ、それがどんな人でも平等に接していた。真面目で、厳格で、温厚な父はみんなに慕われた。
成実。
小さな頃にほっぺをすり寄せて、父は成実を溺愛していた。幸せだった。楽しかった。
でも、それを無惨に奪ったのが安西慎二。
成実は父の心境を考えてみた。涙が止めどなく流れた。
自分がこれから殺されるとわかっていながら安西慎二を監視していた父。
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