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『位置について、ようい、スタート!』
一斉に飛び出した、カエデと、小ダヌキ、小リス、ウリボウを、残った仲間たちが声をからして応援している、もちろん僕も、おばあちゃんも。
カエデがコースにそってカーブを曲がりながらウリボウと1位を競っていると、どこからか太鼓の音が聞こえてきて勝負を盛り上げた。
トラックを一人一周、僕の学校と同じ大きさだと約100メートルはある、全員で300メートルをバトンでつないで走る、バトンは動物のサイズに合わせて大中小あるみたいだ。
「頑張れ、カエデー!」
ウリボウに競り勝ったカエデはトップでバトンをおばあちゃんにつないだ。
ひっしになって逃げるおばあちゃんに迫り来る小ギツネも、駆け足が得意なようだ、リードがどんどん狭まってゆく、その時だった、おばあちゃんがカーブで足を滑らせ転んでしまった。
「あっ」
おばあちゃんはすぐさま立ち上がり、ダッシュで再び走り出したけど、小ギツネ、小ネズミに抜かされてしまった、小ウサギがバトンを受け取るのを横目で見ると、おばあちゃんが悔しそうに、溢した涙をぬぐいもせず、全速力で僕にバトンを持ってきた、僕は後ろ向きにおばあちゃんを見ながら、ゆっくりスタートをきった、走りながら左手を後ろに伸ばす、おばあちゃんから託されたバトンを今受け取る。
「ひろき、頼んだよ」
僕はがむしゃらに走った、おばあちゃんのためとか、僕のためとか、1位を取るとか、これで最後とか、全くそんな考えは消えちゃって、頭の中は空っぽだった、小イタチを抜かした、
ただ、気持ちが良かった、遠くの声援も、太鼓の音も、紅葉のこすれる音も、カエデの叫び声も、秋の風に運ばれてるうちに、皆一緒になって拍手のような応援に聞こえた、小ウサギを抜いた、
前には誰もいなかった、ただ足音が近付いてくる、僕の足音と重なって銃撃戦のような真剣勝負に後ろを見ることが出来なかった、足音が大きくなったとき、僕の真横に小ジカが現れた、僕は目をつぶって走り抜けた。
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