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「ひろき、楽しかったな」
カエデが右手を差し出して言った。
「うん、とっても」
僕たちはギュッと握手した。
「ひろき、ありがとうね」
おばあちゃんが笑顔で、でも涙を流して言った。
「おばあちゃん、ありがとう、僕、とっても楽しかった」
おばあちゃんは僕をギュッと抱きしめてくれた。
『運動会は終了しました、生徒の皆様、保護者の方々、お気をつけてお帰り下さい、本日は誠にありがとうございました』
「ひろき、ひろきももうお帰り、お父さんやお母さんがお家で待っているよ」
おばあちゃんに言われたけど僕は下を向いて答えた。
「うん、おばあちゃんも一緒に帰ろうよ」
おばあちゃんは何も言わずに首を横にふった。
「僕、おばあちゃんがいないと嫌だよ」
カエデが何か言いそうになったのを、おばあちゃんが制止して、代わりに言った。
「ひろき、おばあちゃんはもう死んじゃったから、ひろきと一緒に帰れないんだよ」
おばあちゃんの家なのになんで帰らないんだろう、僕には分からなかった。
「じゃあ、ここに来ればまた遊んでくれる?」
おばあちゃんはまた首を振ってから言った。
「死んだらね、さよならなんだよ、もう二度と会えないんだよ」
え、なんで、分かんないよ。
「そんなの、僕、嫌だよ、僕おばあちゃんと一緒にいる」
そう言ったけど、おばあちゃんは続けた。
「人は絶対いつか死ぬの、おばあちゃんも、ひろきも、だから、ひろきは、これからはおばあちゃん無しでも、楽しく、強く、生きなきゃダメだよ」
「嫌だ、嫌だよ、怖いよ」
いつしか、おばあちゃんは女の子の姿から、いつものおばあちゃんに戻っていた、僕はおばあちゃんにしがみついた。
「ひろきは運動会、立派に戦い抜いたね、楽しかったろう?」
おばあちゃんは優しく僕の頭を撫でてくれた、僕は答えた。
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