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世界各地を歩き回り、国々を訪れる。観光が目的では無い。そこに住む人々と会話を交わし、そして用事が済めばその国を離れる。そうしてまた別の国へと向かう。少女の興味は、たった一つだった。
彼女の名前はトウ。無感情な少女であり、無機質な旅人であり、無二の画家である。
■
黒い絨毯がどこまでも延びる。視界を遮る物は数多く、狭い空が天を覆っていた。絨毯、と言ってもそれは決して貴族が好んでいるような、高級な布地で出来上がっているものではなく、ただただ硬い。地表を覆い隠すように敷き詰められたその絨毯は、まるで石のように固く、所々が捲れ上がっていた。
ただひたすらに道がある。そしてその脇には自由を制限するかのような天にまで届かんばかりの塔がいくつも聳え立っており、そうでなくても高い壁が張り巡らされている。その道は果てしなく横に広かったが、しかし窮屈でもあった。
そんな中を、少女が闊歩していた。
「不思議な国ですね。この国そのものが、まるで作り物みたいな……。自然物が一切見当たりません」
その声は壁と壁とを行き交って、反射する。高らかに、調子の良い声音だ。
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