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ただ好きと伝えるだけなのに、いざ彼女を前にすると言葉が出てこない。そればかりか、心拍数だって跳ね上がる。それは彼女が僕にかけた呪いみたいなもので、体の自由を奪っていく。彼女のことしか考えられなくなる。彼女でいっぱいになる。まるで自分が自分じゃないみたいだ。
だから僕は、改めて思う。
彼女のことが好きなんだと。
暑い夏の午後のことだった。悪友と授業を抜け出し、屋上で空を見上げていた。七月上旬の、抜けるような青の空。純白の雲がまぶしい。雲の中から一筋の飛行機雲が真っ直ぐに青を分断する。そんな空の光景を、ただ地面に仰向けになって眺めていたら、悪友は言った。
「そういえば、お前の幼馴染み。えーっと……沢野……」
「沙希」
「そうそう。その沢野がさ、彼氏いるって噂なんだよ」
「…………」
ああ、もう。なんでこうなんだ。僕は悪友の言葉を聞いた途端、様々な思いが頭の中で渦巻いた。本当に多すぎて、どれから処理していけばいいか追いつかない。代わりに、僕は空に向かって小さく歯噛みする。
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