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私はしゃがみこんで火の中をつつく彼女の隣に寄り添うようにしゃがみこんだ。心がほんのりと温かいのは焚き火だけのせいじゃない。なんだか彼女の中からも焚き火が生まれているようでこうして寄り添っていると気持ちが温かくなってくる。
「きれいですね」
「うん。赤ってさ、暑さとか太陽のイメージで夏っぽい感じもするけど、やっぱり秋が一番似合うと思うんだよね」
「そうですね。私もそんな気がします」
揺れながら少しずつ小さくなっていく炎を見つめながらそう思う。
「さぁて、そろそろ」
火の中をトングで探っていた彼女が待ちきれずに空気をかじったときだった。
「こらっ! お前たちそこで何をしている!」
「ヤバっ! バレたか」
先生の声だ。わざわざ見回りなんてすることもないだろうから、本当に偶然通りかかったのか。それとも上がる煙が意外にも目立っていたのだろうか。私たちに気付いた中年の男性教師は遠目から見てもわかるほどに顔を赤くしてこちらに走ってきている。
「よし、逃げるよ」
「え?」
私がとまどっている内にも彼女は焚き火に水をかけて消化し、中からちゃっかりと二つの銀の包みを取り出していた。
「ほら、早く!」
私にそのうちの一つを押し付けるように渡すと、裏門の方へと一目散に走り出す。私も近くに置いていたカバンをとってその背中を追いかけた。
体育の成績が悪い私は曲がり角を左右に抜けていく彼女の背を何度か追いかけていたが、七度目を数える頃にはすっかり彼女の姿を見失ってしまった。後ろを振り返っても先生の姿は見えなかった。残ったのは手袋越しに温もりを伝えているこの焼いもだけ。
名前もクラスも聞きそびれてしまった。お礼も満足に言えていない。まったく自分は準備が悪すぎると、焚き火の準備をしっかり整えていた彼女の姿が思い出された。
「もらったんだし、食べちゃおうかな」
都合よく見つけた誰もいない公園のブランコに座って、私はアルミホイルを剥がしてみる。湯気立つイモを思い切り半分に折ると黄金色のきらめきが視界を占拠した。
「おいしい」
明日彼女を探し出してお礼とそれから伝えたい言葉がある。
「友達になってくれるかな?」
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