第1章

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 この番組の為にチーム一丸となって半年以上も前から何度も打ち合わせを重ね、出演者のスケジュールをチェックし、舞台装置の制作等の準備に入っていた。何度も細かい企画修正を行い、その度に風呂も入らず徹夜をした。予定していた出演者のスケジュールが急遽キャンセルになり、代役を探すのに走り回った。年末から正月にかけてタレントは仕事の掻き入れ時のため、突発的な出演依頼に対するスケジュール調整がつかないことも多々あった。そういった数えきれない困難をなんとか乗り越えた。その集大成がこの日の収録だった。  そもそも、この番組は正月向けの縁起番組として、ずば抜けた視聴率のとれる「バケモノ」と称される長寿番組だ。若手から大御所までテレビタレントが一同に会し、一芸を披露したり、クイズに答えたり、多額の賞金を獲得したり、とにかく企画内容は目白押しだ。  今回のものが放送されると、初回から実に18回を数えることとなる。それだけに、回を重ねるごとにスタッフはおろか出演者においても並々ならぬプレッシャーが、嫌でも全身にのしかかってくる。だからこそ収録を終えたこの時点で、達成感から目頭を熱くする人間が目立つのだ。  この日、KENJIはこの「バケモノ」番組のMCを務めた。彼は、ここ5年間変わることなくMCという大役を預かり、多くのスタッフの協力を得て、毎回なんとか無事に成功させている。この番組において、過去にこれほど回を重ねてMCを務めた人間は、KENJI以外にいない。それだけ彼の実力が世間的に広く認められているのだ。  KENJIの本職は、下積み時代から合わせると30年を超す程の芸歴を持つ、ベテランお笑い芸人だ。高校を中退してこの世界に飛び込み、10年間の辛い下積み時代を経験して、ようやく今の地位を手に入れることができた。  途中何度もあらゆる場面で、あらゆる意味で「苦難」と直面したこともあった。芸人生活を諦めざるを得ない様な時もあった。それでも、どんなに過酷な状況にもめげる事なく、彼は何とか乗り切ってきたのだ。そういった経験があるからこそ、今はこうして華やかな世界を自分の居場所だと実感することができる。今やKENJIはお笑いに限らず、ドラマや映画、CMに引っ張りダコの超人気者だ。
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