第1章

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 今、僕たちの学校では虫とりがはやっています。潮風の吹きこむ校庭のすみには木がたくさん生えていて、ちょっとした林みたいになっているので、秋にはそこでたくさんの虫がとれるのです。もちろん夏にも虫はいますが、秋の虫のほうがダンゼン面白いです。なぜなら…… 「ほら!」  いっしょに虫とりをしていた友だちが、虫かごをいっぱいにして僕のところへやってきました。  どの虫も、大きいのも、小さいのも、楽器のバイオリンに足と羽が生えたような形をしています。  秋の虫は、特に鳴く虫は、夏の虫よりもフシギな形をしているし、小さいのが多いので、とりやすいのです。夏の虫といったら大きすぎて虫かごに入りきりやしないのですから!  でも、まだ一匹もつかまえていない僕は、友だちの虫かごを見てちょっと悔しくなって言いました。 「すごい! コオロギにコオロギに、コオロギばかりだね!」 「でも、たくさんとったんだからな! エンマコオロギもいるだろ!?」  たしかに一番大きなコオロギは立派で、鳴くときもそうとう、えらそうです。  僕はそのコオロギよりもすごいのをつかまえようと耳をすませました。  り……り……りりん。  そこだ!  かすかな音と気配にすばやく手のひらをかぶせると、何かがいます。  閉じた手のひらを虫かごの上にもっていき、四本の指をそうっと開くと、メタリックゴールドのかたまりが底に落ちました。 「「鈴虫だ!!」」  鈴虫は、胴体である釣り鐘部分を左右に揺らして音を出す虫なのですが、今はじっとしています。 「鳴かないね?」 「もう一匹つかまえたらいいんじゃね?」  それから僕たちはしばらく虫とりをしていましたが日が沈みそうなので帰ることにしました。鈴虫は一匹しかつかまえられませんでした。  ふたりで校門から出ると、誰かの長い影が僕たちのほうへのびてきました。  薄暗いなか、ぼんやりと白く浮かぶその人は、防護服のようなものを着て、ヘルメットで頭をすっぽりと覆っています。  変な人です。  お母さんに、変な人に会ったら逃げるよう言われているのを思い出しました。  でも変な人は僕たちに近よってきます。そして、 「君たち……」  と言いかけて黙り、 「うわあ!!化け物!!」  すごいいきおいで、走っていってしまいました。
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