文化祭 ―2週間前―

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窓の外に目を向けると、紅色の葉が、ひらひらと落ちていくのが見えた。 1枚、2枚、3枚―― それらは時折窓にぶつかったり、身を翻させて回ったりしながら、ゆっくり、それでも確実に、静かに地面へ向かって降りていった。 机に肘をつきながら、ふ、と息を吐く。 1年というのは、本当に、あっと言う間に過ぎてしまう。 こちらの意思や覚悟とは無関係に、月日は巡り、流れていくのだ。 「――あ、天野教官。わたしたち、そろそろ『寮』に戻りますねー」 「はい。お疲れさま」 「天野教官、明日もよろしくお願いしまーす!」 「はい。さようなら」 礼儀正しく、そして規則正しく教室から出ていく生徒たちの姿を横目に、わたしは机の上に置いてある『成績表』に視線を移した。 わたしが見てきた、生徒たち。 ここには、この1年間の、彼らの『成績』が記録してある。 ページを開こうと、指を動かす。 けれど、わたしは途中でそれを止めて――教室の中を見回した。 ――しずかな、教室。 夕陽に染まるその部屋の一番後ろの席には、ひとりだけ、机に伏した状態で微動だにしない生徒がいた。 居眠りしているのだ。 「…………」 無意識に、ため息が漏れてしまう。 彼の『番号』は、Z-031。 このクラス唯一の、『出来損ない』である。
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