文化祭 ―当日―

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―――― ―― 「――天野教官、今まで本当にありがとうございましたー!」 「ええ。これから新しい生活が始まるけれど、頑張ってね」 「はい! 頑張ります!」 あちらこちらから、明るく楽しい音楽が聴こえてくる。 そんな中、目の前で嬉しさのあまり泣きそうな顔をしている生徒の手を、わたしはそっと握ってあげた。 そうして、となりで満足そうに微笑んでいる客にも、会釈をする。 客と、生徒。 そのふたりの背中を見送り、名簿にボールペンで『契約完了』のチェックマークをつけた。 ふう、とひと息つく。 辺りを見ると、陽は沈み、もう暗くなってしまっていた。 今、何時になるのだろう。 そんな事を考えていると、どこからともなく校内アナウンスが流れてきた。 『――文化祭終了の6時まで、残り10分となりました。 まだ『残っている』生徒の方々は、頑張ってください――』 その放送が終わったとたん、例年通り、あちらこちらから叫び声のようなものが聴こえてくる。 その声に顔をしかめ、わたしは手元の名簿を見た。 ほとんどにチェックのついた名簿に目を通し――あるところで、目が止まる。 ――Z-031……。 もう、文化祭終了10分前になる。 しかし、彼の部分にだけ、チェックマークはついていなかった。
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