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目を閉じる。
わたしは、彼がこの前言っていた言葉を、思い出していた。
――先生。俺の『幸せ』は、俺自身が、心から一緒にいたいと思える人に買ってもらう事だよ。
俺の事を想って、大切にしてくれる人。
一緒に、生きてくれる人。
俺は文化祭の日、歌も歌わないし、踊りも踊らない。
ただ、歩いて、話して、自分の目で、きっとそんな人を見つけてみせるよ――
「……おう、天野」
顔を上げると、薄明かりの中、チーフが立っていた。
おまえのクラスの生徒は、どんな感じになった? そう言って寄って来るチーフに目を向けて、「あの」と言う。
「なんだ。どうした」
「校長先生。ひとつ、お願いがあるんですけど」
「……ほう? そうかい天野教官。なんなりと言ってみたまえ」
す、と冷たい空気を吸い込んで、息を吐き出す。
わたしはチーフの顔を真っ直ぐに見つめ、ひと思いに、その言葉を口にした。
「今日、買いたい生徒がいるんですけれど。
なんとか、都合をつけていただけますか――?」
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