文化祭 ―1週間前―

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―――― ―― 教室の中に、かつ、かつ、という乾いた音が響く。 チョークと黒板とが擦れる音である。 電子黒板が主流となっているこの時代でも、まだ一部の学校では、こうして旧式の黒板が使われていたりする。 まして、この学校の生徒たちは、全員ロボットなのだ。 ロボットのためにお金をかけて設備を整えては本末転倒である。 ――『文化祭』。 黒板の真ん中に大きくその文字を書き、わたしはそれを仰いだ。 それを見た教室中の生徒たちが、ざわざわと話を始める。 「静かに」わたしは強い口調で言って、その文字をチョークの先で叩いた。 「――皆さんもう知っているでしょうけれど、『文化祭』の時期が迫ってきています。 『いったい何をやるか』――というのは各々考えていた事とは思いますが、今日はプリントを用意してきました。 ここには、去年や一昨年、文化祭でどんな事が行われたか、特にどんなものが人気だったのか、というのが書いてあります。 もし何も考えていなかった、というヒトがいたら、是非参考にしてください。 ――逆に、何か考えていた、というヒトでも、一度は目を通しておいてくださいね」 では、現時点で何をやるつもりなのか、アンケートを取ります。 そう言って、わたしは藁半紙を生徒たちに渡した。 配られたとたんにペンを走らせる生徒。 先ほど配ったプリントを見ながら、少し考えるような素振りを見せる生徒。 他の生徒と相談を始める生徒。 こうして見ると、本当に本物の人間のようだ―― 「…………」 視線を動かす。 一番気になっている生徒――Z-031に目を向ける。 031は、もうすでにアンケートを書き終わっているのか、4つ折りになった紙を机の隅に置いて、目をつむっていた。
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