第1章

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     カオスへ 選ばれたプレーヤー達                                    宝生 時雨      忘我日々  ジリリリリリリリ・・・・・・  バンッ。 「くそっ、眠いなぁ」  長年にわたって蓄積された、疲れのとれない体を田原賢司は、ゆっくりと起こした。時計を見ると午前5時を目前にした時間だ。 「もっと楽な仕事ないんかな」  毎朝起きるたびに考えることだ。もう何年繰り返しているだろう。常々転職することを考えるのだが、毎日の重労働のおかげで履歴書を書くことが面倒だった。  毎日くたくたになるまで働くことによって、転職意欲を削がれているのは、もしかしたら人材流出を阻む為の会社の陰謀かもしれない。いつしか田原はそう思うようになった。  眠気覚ましのシャワーを浴び、作業着を身につけてアパートを出た。あたりは薄らと明るくなっている。が、人が活動している気配は殆どない。  田原は大通りに向かって歩き、途中コンビニで朝飯を買って、通りに面した駐車場に足を踏み入れた。そこには、彼が学生の頃中古で購入したハチロクが置いてある。この車との付き合いは既に10年を越えたが、いまだに愛着が増してくる。不思議なものだ。  田原はハチロクに乗り込み、キーを回してしばらく暖気した。重低音の排気音が静寂の町を震わせる。色々と改造パーツを装着しているのであまり警察には見られたくない。  缶コーヒーを喉に流し込み、煙草を吹かしながらじっと排気音に耳を傾けた。  コイツは今日も調子がいい。ギヤをローに入れ、田原は職場に向けてハンドルを切った。  一時間程車を走らせて、ようやく事務所に辿り着いた。 「おはようございます」 「よう、おはようさん」  2年先輩で4歳年下の西村が、先に到着してスポーツ新聞に目を通していた。彼は小学生の頃から柔道をやっていただけあって、背が低いながらも尋常でない広い肩幅のおかげで大柄に見える。 「昨日帰りが遅かったから、まだ眠いっすわ」 「そない言うても、途中で渋滞にハマってもうたら、もっと帰りが遅なるで。それに今月のノルマ、キツいからなぁ」  田原の勤める会社は、自動販売機の缶飲料のデリバリーを専門に行う会社だ。  二人一組でトラックに乗り込み、担当するエリア内の自販機を訪れ、売上金の回収と商品補充を行う。必要があれば、キャンペーンステッカーを貼ることもある。
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