第1章

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 一組が担当する自販機台数は200台前後で、これを一週間かけて回りきる。行楽地の様な場所では、週末の販売数量が多く見込める為、重点的に補充を行う。その為、週休は平日にとることが多く、盆暮れは多忙を極める。  また、一日にどれだけの自販機を訪れるかによって売上金の回収額が変わり、その為にノルマの達成度合が変わってくるので、一日の訪問台数を目一杯詰め込む。しかし、渋滞などで時間をとられてしまうとなかなかノルマを達成することができない。  だから、誰もが出勤時間を早め、残業時間を延ばし、一日の訪問台数を増やすことによって時間のロスを補う。 「今日は張り切って50台行こか」西村が訪問リストを田原に見せてきた。 「マジっすか」  西村はいつも助手席に座って睡眠時間を確保しているからいい様なものの、一方の運転させられる田原にとってはたまったものではない。この日も深夜残業を覚悟するしかないようだ。 「俺、そのうち事故るよな」ぽつりと呟いていた。  日付が変わる頃、田原はようやくアパートに帰り着くことができた。車から降りると、まるで体がダンベルになったように重い。このまま布団に潜り込んで眠ってしまおう。  しかし、そんな些細な望みまでもが断たれてしまった。田原が部屋の鍵を差し込み、ドアを開けた瞬間、突然背後から声をかけられた。 「随分遅かったな」  極度の疲労のおかげで、背後の人の気配に全く気付かなかった。 「チッ」つい舌打ちが出てしまった。声でその主が分かったのだ。  今日はツいてない。明日はやっと休みがとれるというのに。 「ああ、遅いのはいつものことや」田原は首だけで後ろを振り返った。  やはりあの二人だった。かれこれ10年も顔を合わせることのなかった彼らと再会することになるとは、思ってもみなかった。むしろ二度と会いたくない奴らだった。 「久しぶりだな」 「何の用や?」  仕事疲れと、忘れかけていた嫌な記憶とが合わさって、ついぶっきらぼうな対応をしてしまった。 「なんだか機嫌が悪いみたいだなあ」小太りがいやらしい笑みを浮かべている。  一方の細身は昔と変わらず無表情だ。何を考えているのか、全く人には悟らせない。不気味な男だ。 「そんなに連れなくしなくてもいいだろ。俺達は仲間だろ」  田原は、その「仲間」になってしまったことを10年経った今も後悔している。 「それで、その仲間がこんな時間に何や?」
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