第1章

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「例のプラン、再開するぞ」細身の男が抑揚なく言った。 「まだやるんか?もうええやろ。アレで終いにしたんと違うんか」  10年前のあの出来事を思い出すだけで、田原は軽い吐き気を覚えた。 「これからがいいところなんじゃないか。10年前のアレは、今回の為の準備段階だったんだ。とりあえず、中に入れてくれないかな。外でこんな話して、誰かに聞かれたら嫌だろ」笑みを消した小太りが、田原の部屋の中を覗く様な仕草をした。 「俺はやらんぞ。目的もわからず、えげつないことをやらされる俺の身にもなってくれ。お前らに付き合うてたら、頭おかしなるわ。」 「そう言わずに、話だけでも聞いてくれないか」 「嫌や。帰ってくれ。俺は何も聞いてないし、何もしてない。早よ帰ってくれ」  田原は小声ながらもキツい口調で、早々に二人の男を追い返そうとした。同じアパートの住人にどうしても気付かれたくなかった。 「そうか。お前は何も聞いてない。そして、何もしてない、・・・か」  細身の男は静かに言うと、体勢を少し低くした。 「それならそれで結構っ」  ドンッ  田原の腹部に衝撃が伝わった。そろそろと視線を下げると、鳩尾にサバイバルナイフが深々と突き刺さっていた。 「お、お前何考えとるんや・・・」声にならなかった。 「相変わらず君が話の分かる男で助かった」  細身の男が微かに笑った。隣の小太りが表情を凍りつかせている。  田原は視界が暗くなるのを感じた。目眩がする。立っていられなくなった。その場に膝をつき、反射的にナイフを引き抜こうとした。 「待て待て。今抜いたら、血が噴き出ちまうって。とにかく落ち着いて部屋に入ろう」  小太りが慌てて田原の背後に周り、両脇から腕を差し入れ、部屋に引きずり込んだ。丁寧に田原の靴まで脱がせた。  二人に続いて細身の男が、部屋に上がり込んできた。右足を引きずっている。これは10年前のアノ時からだ。 「痛いかい?」  田原は意識が朦朧とした中で、わけも分からず、ただ小刻みに首を縦に振った。 「今回再始動するにあたって、君には確実に死んでもらわないといけないんだ。だから、しばらく観察させてもらうよ」  細身の男は、無表情のままじっと田原の表情を見つめてきた。まるで生命を感じない。それは果てまで見通すことのできない宇宙の窓の様な目だった。      エピソード(1)
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