第1章

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 2000ピースほどだろうか、元画もなく、ただ闇雲にピースをひとつひとつ当てはめていったので、ここまで完成させるのに5時間近く掛かってしまった。 「多分あと一人分、ピースが足らへんみたいやな」  腕組みをした長身の南拓也が、学食の柱にかけられた時計に視線をやりながらこぼした。  彼の勤める会社は、最近民事再生機構の支援を受けることが決定して世間を騒がせた、あの大手流通企業だ。そんな大変な時期に、この場にわざわざ足を運んでくる余裕は、今の彼には与えられていないはずだ。しかし、この場に来ずにはいられなかったのだろう。 「誰が来るんやろ?」  人一倍小柄な小島ゆかりが、心配そうに学食の入口に視線を移した。彼女は神戸市内の女子大学を卒業後、徳島の実家に帰り、地元の役所に5年間勤めた後、同僚の男性と結ばれた専業主婦だ。彼女が神戸を訪れたのは10年ぶりらしい。 「それにしても、遅すぎるんと違いますか。集合時間から5時間も経ってますよ」  神経質そうに忙しなくしきりに腕時計を確認するのは、勝田修だ。彼は旅行代理店でツアーコンダクターとして勤務している、と先程自慢げに自己紹介していた。時間に厳しそうな彼には適職と言えるのだろう。 「この雨ですからね。電車が遅れてるんかもしれませんわ」  がっしりとした体格の四元秀樹が、椅子の上にふんぞり返ってじっと目を瞑って落ち着き払っている。彼は市内の繁華街で数年前から脱サラをして居酒屋を経営している。ちゃっかりと名刺代わりに店のリーフレットを配っていた。彼の話によると、客入りはなかなかのもので、そのほとんどが同窓生やその関係者らの口コミで、評判が広がっているようだ。そんな経営者としての自信が彼の態度からにじみ出ている。彼のことが木村は少し眩しく思えた。 「まさかそんなはずはないやろ。ここには地下鉄でしか来られへんし。せやから天気に左右されるはずはないんと違うかなあ」南が四元を見下すように否定した。 「いや、他の私鉄でも来れますよ。そのかわり駅からバス乗らんといけませんけどね」  勝田らしい指摘だ。 「ああ、そんな来方もあったんやな。長い間神戸離れてるからすっかり忘れてたわ」  東京暮らしをしている南は細かいことは気にせず、素直に勝田の言い分に納得してみせた。 「どうします?このまましばらく待ちます?」
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