第1章

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 先程から呼び出しを続けている携帯電話を気にしながら、ゆかりが退席したい旨をやんわりと伝えてきた。 「私、徳島に帰らんとあきませんし、ここら辺でお開きにしませんか?ねえ?」  隣にボーッと突っ立ったままほとんど口を開く事のない生田知美に、ゆかりが同意を求めた。 「え?はぁ・・・・」口数が極端に少ない知美は、不意をつかれ、少々戸惑い気味だ。  彼女は殆ど自分の事を話したがらず、結婚しているのかどうかも不明だ。とにかく、アクセサリー類は一切身につけていない。木村が見る限りでは、彼女はおそらく未婚であろうと推測できた。化粧っ気もなく、色白で無表情な顔を、一重瞼の切れ長の目が一層それを引き立てているようにも見える。 「お開きって、君らこのままで気持ち悪くないのか?」  木村は少しいらだちを覚えてしまった。ゆかりは、今の状況がどういうことなのか、全く理解できていないようだ。しかも、他人事としてしか捉えていないようにも見えた。 「気持ち悪いって言うても、私、そんなに長い時間、家空けられませんし・・・。何か分かったら教えてくれませんか。とにかくこれを読んだからって、私、関係ないですから」 「せやけど、ここに集められたメンバーが、闇雲に選ばれたってわけでもなさそうですよ」  木村とゆかりのやり取りをじっと聞いていた勝田が静かに言った。 「勝田君は、これどう思うんや?」南が顎でジグソーパズルを示し、意見を求めた。 「さあ。どちらにしても、この中に該当者がおるって考えて間違いないんと違いますか。実際そう書いてありますしね」 「でも、そんな面倒臭いことするか?普通に考えたら、犯人を知ってるんやったら、そいつに直接言うて脅迫するなり自首を促すなりするやろ」 「そこなんですわ。一体何の目的で、僕らをこの場にわざわざ集めたんかが、さっぱり分かりませんわ」  四元は相変わらず目をつぶったままだ。仕事の都合上、家に帰るのはいつも早朝で、それから睡眠をとり、正午頃に起き出して店で仕込みをするという生活サイクル故、今日は睡眠時間を削ってこの場に集まった為に睡眠不足で疲れているのだろう。 「とにかく、あと一人ですわ。そいつが持ってるピースがない限り、どうしようもない訳ですわ。でも、このまま誰とも分からん奴を待っててもしゃあないから、やっぱりこのまま解散しましょうよ」  結局、勝田も帰りたいようだ。木村は慌てた。
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