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クラスメイトは頷く。
「魔女というと悪いイメージがあるかもしれないけど、必ずしも悪い魔女ばかりじゃないんだよ。例えば、白魔女とかは良い魔女の代表だね」
「オズの魔法使いに出てくる北と南の魔女とか」
「そんなのもいたわね」
「懐かしいなぁ。子供の頃、全部読んだことあるぜ」
別の男子生徒が会話に入ってくる。
「この前、テレビでオズの魔法使いの映画を流していたよな」
「あっ、見た見たっ」
クラスはいつの間にか、オズの魔法使いの話題で持ちきりになった。
そんな皆を見ながら、わたしは考える。双葉は魔女なのか、と。
――色白だったよね。髪は黒かったけど、魔女的な雰囲気はあったかな。
もし彼女が魔女ならば、どうして自分にあんな素敵なことをしてくれたのだろうか? まさか、代償になにかを要求してくるつもり?
「そんなことはしないよ。ただ、経験させてあげたかっただけだよ」
いつの間にか、双葉がわたしの前に立っていた。驚いたわたしが声を上げようとし、彼女がそっと人差し指をわたしの唇に当て、微笑んだ。その笑顔はとても素敵で、悪い魔女とは思えない。
「強いて言えば、ただの気まぐれかな。自己満足ともいうかな。わたしの趣味は一日一善だから、そのノルマを達成したかっただけかもしれない」
彼女のいうように、ただの自己満足なのかもしれない。それでも構わない。素敵な経験が出来たのは間違いないのだ。だから彼女にこの言葉を送ろう。
「ありがとうっ、魔女さん」
とびきりの最高の笑顔で、感謝。
「どういたしまして」
そういって彼女は微笑みながら、教室を出て行った。クラスに関係のない部外者が来たのに、あんなに綺麗な子なのに、誰ひとりとして気にもとめない。もしかして、やっぱり見えていないのだろうか。彼女は魔女だったのだろう。文化祭を経験できなかったわたしに文化祭を経験させてくれた、素敵な魔女さん。
「ありがとう」
わたしは去っていった彼女に、再び感謝の言葉を贈った。
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