紫鳳の夢

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 わたくしは、美しい物しか見たくはない。  この宮廷は、美しい物ばかりだけで埋め尽くしましょう。  わたくしの瞳に決して醜い物が映らぬよう。  全てを夢のように美しく……。 _____________  これは遥か昔。某(なにがし)の地に在った、今は無き『麗』と呼ばれる国の話である。  もう、それが定かなのか知るよしもないが、その国を記憶に留めている者は口々にこう言ったといわれている。 『あれはまるで、夢幻(ゆめまぼろし)の如く美しい…幸福な…だがあまりに脆く儚い国であった』と。  現在『麗』についての記録が残された文献はごく僅かである。現存しているのは500年ほど前に書かれたとされる上下に分かれた巻物が二巻あるのみだ。 『麗国』上巻の始めにはこう記されていた。  某の地に土壌、水脈豊かな国有り。その国の名を『麗』と云ふ。民は三千余り。商業、農業、医療の発展著しく、民は皆、潤いたり。  首都は北に有り『麗嶺(れいりょう)』と云ふ。麗嶺の中心部に城有りて、麗の君主が居とする。君主、名を燈華(とうか)と云ふ。  在位十五年。齢三十にて没す。是(これ)、女王なり。  容貌甚(はなは)だ優れ、麗し。聡明、穏和にて候(そうろ)う。只、一つ欠落有り。  女王、甚だしく色好みなり。  正室を持たず、見目麗しき男妾、六人を寵愛す。何れにも嫡子生まれず  国、廃れたり……。    
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