第1章

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 彼が私の前に跪くような姿勢となり、自然、私の視線は彼の頭頂に向かう。  そして、黙って視線を反らした。  にこやかに立ち上がって私を見る彼に、私もニコニコと笑って、ありがとうとお礼を言う。  今見たことは、欠片も匂わせずに。  彼は、まだ三十にも届かないこの年齢で、既に、頭のてっぺんが薄い。  私の完璧な彼の、唯一の欠点だった。  いや、違う。  禿くらい、どうでもいい。そんなものは髪型の一つであって私にとっては何のマイナスでもない。  彼の頭が波平さん以上に禿げ散らかした状態でも、変わらず好きでいられる自信はがっちりあった。  ただ。  何でも遠慮なく話せる彼との間で、唯一触れられない話題だ、ということが、私にとっては大きな問題だった。  旅行先で撮った写真を二人で見ているときも、バッチリ写った彼の頭の惨状については全くのスルーだった。  『大切な頭皮のために』と明確に宣伝しているシャンプーを買う時も、わざわざなのかそうでないのか 「これ、めちゃスーッとするんだ。清涼感が好きなんだよね」 と言っていた。
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