彼の日常

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「ちょっとそこに座って頂けますか?」  私はテーブルの向こう側に彼を座らせた。 「何?」  彼はいきなりの事にきょとんとしている。  首を傾げ、こちらを見つめてきた。  可愛い動きに私は一瞬ほわんとなごむ。  はっ、いけないいけない、今日こそはちゃんと話すんだから。  彼のこの完璧に可愛い容姿に、いつも私は怒る気力を奪われてきた。  頭を振りつつ、自分も座る。 「携帯電話をここに出して下さい」  テーブルの上をトントンと叩く。 「何々? 何で変な喋り方してるの?」 「いいから出して下さい」  きっと彼を睨み付ける。 「何だか恐いよ?」  悲しそうな顔をしながら、彼は携帯電話をテーブルの上に出した。  とても心が痛い。  でも、負けていられない。 「携帯電話を開いて下さい」  彼は携帯電話を開く。 「待ち受けに設定されているのは何ですか?」  私は携帯電話をちらりと見る。  彼の方に開いているので画面は見えないが、そこに何が設定されているかは見なくても分かる。 「兄ちゃんの写真」 「そう! あなたのお兄さんの写真!」  ここで全国の彼氏持ちの彼女さんは何故?とお思いでしょう。  私だって最初に見た時には驚いたよ!  何故兄?  皆で撮った家族写真でもなく、何故兄オンリー? 「それがどうしたの?」  待ち受けに兄の写真が設定されているのは当たり前でしょ、みたいな顔をするな!
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