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しばらくの間三人で他愛のない話で盛り上がり、丁度喉が渇いてきていた時だった。
「喉渇きましたね。私売店で飲み物を買って来ようと思います。なにがいいですか?」
「ありがとう桜さん。私には緑茶を買ってきてもらえるかしら。お金は私の財布から」
「いいよ母さん。飲み物のお金ぐらい俺が出すから。俺も行くよ桜」
「ありがとう響くん」
わざわざお礼を言うことでもない当然のことなのに、律儀にお礼を言ってくる桜に笑みが零れる。
おそらく、飲み物のことも俺たちへの気配りだろう。桜がさりげない気遣いをすることは珍しくはなく、こんないい子が俺と付き合ってくれているのが本当に不思議で堪らない。
俺は桜と二人で病室を出た。扉が音を立てて閉まると同時に、桜が俺の名前を呼びながら腕を絡めてきてドキッとなる。
熱く潤んだ瞳で上目遣いに見上げられ、顔が赤くなるのを感じる。
思わず逸らしそうになるがどうにか耐える。
「お母様とゆっくりできる大切な時間なのに、ついて来てくれてありがとう。私を選んでくれて嬉しい」
幸せそうに微笑む桜に言葉が出ない。
ついて来たのは一人で行かせるのは申し訳ないというだけの理由だ。桜が言うほど大げさなものじゃないのに、なぜか言葉が憚られた。
内心戸惑いながら、言葉の代わりに曖昧な笑みを返す。
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