泡沫

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こっちが緊張してしまいそうなほど幸せそうな桜と、なんとか平常心を装って静かな廊下を歩いていると、看護師さんと目が合って軽く会釈をして通り過ぎる。 と、ふいに桜が足を止めて俺も足を止める。 「桜?」 「ねえ響くん。ちょっとついて来てほしいところがあるの。お願い」 「いいけど……どうしたの?」 桜は答えない。こっちよと言って俺の腕を引っ張ると、少し歩いてすぐの扉を開けて部屋に入る。 勝手に入っていいのか戸惑ったが、桜は院長の娘だ。見つかっても注意だけですむだろう。 入ってみれば中は綺麗に片付いていて、人のいたような痕跡や気配はない。空き部屋だろう。 と、ふいに背後でカチャリと音がした。気になって振りむこうとした次の瞬間。 「……っ」 ぐぐっと腕の力を強められ、痛みに顔が歪む。驚いて桜を見た瞬間、息を呑んだ。 見たこともないような恐ろしい顔をして、視線で人が射殺せてしまいそうなほど鋭く冷たい瞳が俺を睨みつけていた。あまりの恐ろしさに血の気が一気に下がり、固まってしまう。 「さ、桜……?」 震える声で戸惑いながらも呼ぶが、桜は返事をしない。 気がつけば、こくりと喉を鳴らしていた。 「だめよ響くん」 暫しの無言の後にようやく返ってきた言葉は背筋が凍りつきそうなほど冷え切っていた。 ・
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