762人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
◇梁取先生の過去◇ #2
傍から見ているこっちが恐怖で泣きそうになった。
どうしたらいいか分からなくて、杏子の上半身を抱えながら、必死で息を吸い込んでいる杏子を見ている他なかった。
杏子はもう限界だったのだ。
たかが恋愛と思っていた自分の浅はかさが心底嫌になった。
数分もすると、杏子の息遣いは正常に戻っていった。
そして体の力が抜けたのか、しばらく動くことができずにいた。
俺はそんな杏子の手を握って、ただ杏子が動けるようになるのを待った。
『ごめんなさい』
しばらくすると杏子は一言だけそう言ってシクシクと泣き出した。
なんて言ったらいいか分からなくて、ただ手を握りしめた。
『しばらく学校休んだらどうですか?』
『一度休んだら、もう戻れないような気がするの。学校だけじゃない、社会にも』
『でも、もう限界なんじゃないですか?』
『……そうね、もう限界かも。でも、負けたくないから』
この期に及んでも、負けたくないと言う杏子の負けず嫌いに笑いが出てきた。
『なんで笑うのよ』
恥ずかしそうに俺を睨みつける杏子を見て、本当はとても弱いのだなと思った。
必死に背伸びして立っていないと崩れてしまうのが怖くて、だからいつも完璧を演じていたのだなと、そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!