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「ただいま。……またあなたは。仕方がないわね」
部屋に散らかったものを片付けていく。本、勉強道具、食器。そういうものを片付けていくのも私の日課になっている。
「……ごめんなさい」
無感情な声で謝るのもいつものこと。それでもその眼は恐怖に満ちている。堪らない。愉悦。恍惚。そのたぐいの感情が私を支配する。あぁ、夜という時間はこれだから素晴らしい。暗く思い感情が私を、そして彼を支配する。
つかつかと彼に近づき、手に持った鞄で彼を殴る。重く鈍い音が部屋に響く。古いアパートに部屋は一つだけ。そして私以外に誰もいない。つまりは――――
「あなたはッ! いつもッ! そうやってッ! 私をッ! 困らせるのねッ!」
鈍く重い音が響き渡る。鞄で。足で。時には拳で。彼を殴り続ける。蹴り続ける。そして胸ぐらを掴んで彼の頬を叩く。乾いた音が部屋中に響く。
「――――ごめんなさい、ごめんなさい。もうしませんから……」
頭から、顔から、身体から、彼は血を流す。部屋中に染みた黒い染みはその証。
「でも、そんなあなたが大好きよ」
そう言って血の流れた唇にキスをする。口内に血の味がしても構わない。そのまま呼吸の出来ないほどの深い深いキスをする。舌を絡ませ、甘噛、滑らせ、そして。
「今晩ご飯の用意をするから、待っててね」
そう言ってキッチンに立つ。自分用と彼用に二つの食事を作る。最低限の栄養がとれるスープ、そして自分の食べる普通の食事。
「――――出来たわ。さぁ頂きましょう」
そう言って彼の前にスープを差し出す。さも当然かのように四つ這いで熱いスープをチロチロと舐めだす。その姿を眺めながら私は自分の食事を食べる。
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