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そういえば、昨夜は少し気分転換がしたくて、ゲームのアバターをちょっといじった。といっても、着せ替え人形の要領で、昨夜の気分にあった服装をあつらえ、それれに合わせて、ちょっとだけアバターの髪を短くした、程度だけれど。
でも、まさか、ゲームキャラの見かけを変えたからって、それが現実に反映される筈もない。
俺の髪が短くなっているのは…気のせい。多分、前に理容院に行った時に切り過ぎたのを忘れていて、今、ちょうどいい長さになったところでそれに気づいた、とかだ。
同期の女の子の発言は…多分きっと向こうも何かの気のせい。そうに違いない。
無理矢理脳にそう言い聞かせ、俺はこの件を意識から追い出した。そのまま本当に忘れていった。
だけど一週間ばかりが経った頃。
「あれぇ? どしたの? 髪、染めるなんて」
出社するなりの指摘に、俺はぎょっとして頭を押さえた。
朝起きて、鏡の前で感じた驚きは気のせいじゃなかった。人が見ても、俺の髪の色は昨日と変わっているのだ。
「今までずっと黒かったのに、珍しいね」
「いやまあその…気分転換」
本当に、気分転換だった。昨夜、たまたま手に入れたアイテムに似合ったから、アバターの髪色を明るい茶にした。
その色に変わった毛髪が、現実の俺に生えている。
周りは『思い切ったな』とか『似合ってる』とか言ってくれるが、それらが聞こえなくなるくらい俺の心中は穏やかではなかった。
ゲームのアバターに変化を与えると、俺の身にも変化が起きる。あのゲームが原因なのか、他に原因があるのかは判らないけれど、どうやらそれだけは確定だ。
その日一日を落ち着かない気持ちでやり過ごし、俺は退社と同時に家へ飛んで帰った。
ゲームの電源を入れ、アバターの設定画面を出す。
髪の長さも色も、最初に設定した通りに戻そう。そうしたら、二度とこのゲームには触らない。
そう決めて設定をいじり出すのに、操作が全くできない。…どころか。
見えない誰かがいじっているかのように、勝手に俺が選んだアバターの見かけが変わっていく。
髪型も髪色も、体格も、顔さえも、好き勝手に変えられていく。
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