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アバター
少し前からネットのゲームをするようになった。
といっても、私生活が壊れる程ハマってるとかじゃない。寝る前に一、二時間遊ぶ程度だ。
ゲームの内容は、どこかへ戦いに行くようなものではなく、土地を開拓し、花壇や畑を作ったり動物を育てたりというのんびりとしたものだ。
コートローラーをガチャガチャ動かすようなゲームは、昔からあまり得意じゃなかったから、こういうのが俺には向いているようだ。
寝る前に少しだけ、ネットの仮想空間の住人になる。
自分に似せたアバターが、将来、家庭を持ったらこんな家に住みたいなという雰囲気の家に住み、自然と動物に囲まれてのんびりまったり…。
でもあくまでゲームはゲーム。遊ぶのは仕事に支障が出ない程度。そう割り切って、一月程経った頃だった。
「△〇くん、髪、切った?」
同期の女の子にそう言われ、俺は驚きながら首を振った。
恋愛感情とかはないけれど、そこそこ仲のいい同僚の女子。彼女はおしゃれ好きらしく、他人の見目の変化に敏感で、誰かの髪型とか小物とかが変わるとすぐに気づくタイプだ。
でも、俺が理容院に行ったのは半月以上前だし、整髪剤で髪形を変えたとかもない。ごくごくいつも通りだ。
「そう? でも、昨日と感じが違うよ?」
首を傾げながらそう言う彼女に、つっけんどんにならないよう『髪型は変えてない』と言い張る。実際、何もしてないし。
でも、昼休みにトイレで鏡を覗き込んだ時、俺は自分の姿に違和感を感じた。
朝は気づかなかったけれど、確かに、髪が短くなっている…気がする。
本当に少しだけど、ちよつと伸びてきたなと思っていた髪が、散発後くらいの長さになっていたのだ。
咄嗟に昨日の行動を思い返すが、髪を切りに行った覚えも、ましてや自分で切った覚えもない。
昨日、退社後にしたことといえば、コンビニで弁当を買い、家に持ち帰って食べた。録画しておいた番組を見終えてから風呂に入り、寝る前に一時間程ゲーム。それだけだ。
…そういえば。
ふと、意識を一つの考えがよぎる。
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