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 数歩後ろに下がって微笑む千歳を、真浩は大きく瞬きをしながら見遣っていた。それはまるで夢のようで。まるで、千歳との出会いも自分の夢の中で起こっている出来事なんじゃないかと。そう思わせる程、今の彼は儚く、ゆらゆらと泡になって消えそうだとすら思う。 「すまんな。真浩が可愛くて、思わずキスをしてしまった」  ふつ、と頭の中で音が聞こえた。目の前には、悪戯っぽく微笑む千歳が居て。真浩は今、祠の前に立って居る。夢なんかじゃない。自分は、千歳にキスをされたのだと……。それを現実として受け入れた瞬間だった。 「ち、千歳さんのっ……バカ! 変態っ!」  急激に体を支配した羞恥により、訳の分からない罵倒を吐きながら――真浩は駆けだした。冷静になんて居られない。自分は今、キスをされたのだ。こんなの、まるで恋人みたいじゃないか。そんな恥ずかしい事をした後に、よくああも平然と居られるものだ。  断崖絶壁のような石段を勢いよく駆け降りる。転がり落ちるかもしれない、なんて恐怖はなかった。今の真浩の中にあるのは、どうしようもない羞恥心。  逃げるようにバス停まで来たものの、そうタイミングよくバスが来るはずもなく……。結局、路上で蹲った所で千歳に追いつかれてしまった事は言うまでもない。
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