2/11
250人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
 今日は、なんだかぼんやりと過ごした一日だった。近くで飛び交う友人達の話題も右から左。もちろん授業だって、先生の質問に答えられず、怒られた。  正直、何を考えて良いか分からなかったのだ。頭で何かを考えようとすれば、どんな内容であれ、必ず千歳の顔が思い浮かぶ。そして、あの祠で施されたキスの事……。結果、モヤモヤとした気持ちの悪い感情に支配されて、体温が上がり、暴れ出したくなってしまうのだ。  一体、自分はどうしてしまったのか。  この感情の名前も分からぬまま、放課後になり。そして、教室まで迎えに来た浩登に――浩登は、昨日の夜から真浩の様子がおかしい事に気付いていたようだけれど、きちんと言葉で尋ねられたのは、二人で下校している時が初めてだった。 「真浩。何かあったんですか?」  ぼんやりと、ただ足を前へ進める事だけに集中していた真浩は、一瞬、浩登に何を尋ねられたのか理解が出来なかった。 「真浩?」 「いや。別に、なんでもない。なんもないし……」  そうですか、と。言及はしないものの、納得はしていない様子だ。真浩が自分から話し出すまで待ってくれているのか、どうやって喋らそうかと策を練っているのかは分からないけれど、それから駅に到着するまで二人の間に会話は無かった。 「では、僕は今から塾に行ってきます。真浩は気をつけて帰るんですよ?」 「……分かってる」  プシュウ、と真浩の後方にバスが到着した。けれど、これは真浩が乗るべきではない『下り線』。ぽつぽつとバスの中から人が降りて来て。それと行き違いに手を振ってから乗り込む浩登。その表情はなんだか晴れない。浩登が後ろ髪引かれるような思いでバスに乗りこんで行ったのは真浩のせいなのだけれど、今の真浩には、浩登の気持ちを考えてやる余裕はない。真浩は顔を上げる事が出来ないまま。鉄の箱は走りだして行った。  ……浩登に、全てを話すべきなのだろうか。浩登ならば、この真浩の中に湧きあがるぐちゃぐちゃとした感情の名前を知っているかもしれない。どうすれば、この感情を抑えつける事が出来るのかも。彼ならば、何か……真浩の分からない事を教えてくれるような気がしたから。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!