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外に吐き出してしまえば、拭き取る為のティッシュすらない事を、真浩は忘れていたのだ。床に飛び散ったそれは雑巾で拭き取れば良いのだけれど、さすがに体を雑巾で拭うのは気が引ける。後の処理が出来ない事態であった事に、浩登は気が付いていたのだろう。
「では、お詫びに……抱きしめて貰えますか?」
「え?」
「少し頑張り過ぎて、疲れてしまいました」
そう言いながら、とんと真浩の肩口に額が乗っかる。真浩は浩登に言われたように、優しく背中へと腕を回して抱きとめてやった。こんな事で、真浩への謝罪は済まないのだけれど。
「気持ち良かったですか?」
そう尋ねる浩登の声がとても嬉しそうで。
「……うん」
「それは良かったです。頑張った甲斐がありました」
浩登の独り言のような声に返事をする暇もなく――すぐに背中へと移動した腕に強く抱きしめられる。それに応えるべく、真浩はただ強く浩登の体を抱きしめ返したのだった。
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