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今日は、なんだか朝から気だるかった。このまま廃人と化し、ベッドの上で両手足を伸ばしたまま無駄な一日を終えたい気分……。部屋に真浩を呼びに来た浩登にそう告げれば、浩登は可笑しそうに笑ってから部屋を出て行った。きっと母親に学校を休めるよう交渉してくれているに違いない。
「真浩。入りますよ」
「うん……」
一旦部屋を出た浩登が再び訪れたのは、朝の挨拶をしてから数分後の事。静かに扉を閉める浩登の手には一冊の本があって。どうやら、浩登は今からここで読書を始めるらしい。
ベッドに転がったままの真浩を他所に、浩登はベッドの傍に腰を降ろして本を開いた。参考書、ではないようだ。チラリと横目で見た限り、参考書より遥かに多く小さな文字達が一列に並んでいたから。
「それ、何の本?」
寝がえりを打って、真浩は本格的に浩登の手元へと視線をやる。タイトルは『橋の向こうに』か。聞いた事もないタイトルの本だ。まあ、文字列を目で追う事を苦手とする真浩が知っている本のタイトルなんて、ドラマ化や映画化された有名作品しかないのだけれど。
「珍しいですね。真浩が本に興味を示すなんて」
「……別に。興味がある訳じゃないけど」
「そうですか」
浩登は、真浩の質問には答えてはくれなかった。何も言わずに本へと視線を落とし、ページをめくる。浩登の後方から文字を追おうにも、真浩が最初の一行を読み終わった瞬間に次のページへと移動して行くものだから、その内容は一切分からない。
「面白いん?」
「そうですね……、興味深いです」
『興味深い』と言う事は、なかなか面白い内容だと言う事ではないのだろうか。なぜ自分の言葉が訂正されたのかも、真浩の言う『興味深い』の意味も理解できないまま。先程読みだしたばかりの物語は、既に半数のページが浩登の左手の中にあった。
「それ、読み終わったらどっか行く?」
「どこに行くんですか?」
「決めてないけど……」
「では、ホテルに行きましょうか」
ふと。浩登がなんとなしに口にしたのだろう『ホテル』と言う言葉に、真浩の表情は思わず引きつった。
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