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 それに浩登だって、源次郎から小説や参考書を借りたのだと言う話はよく口にしているし、嫌だ嫌だと言いつつも、心底嫌っている訳ではないのだろう。 「小説、もう読んだんッスか?」 「はい。先程読み終わりました」 「早いッスね! さすがッス!」 「深読みする程のものでは無かったので」 「そうッスか? この人の本、どれも人間味が溢れてて俺は好きなんッスけどね」 「嫌いではありませんが……」  そうッスよね! なんて言いながら浩登に抱きつく源次郎は、飼い主にじゃれつく大型犬と相違ない。まだまだ同じ著者の本が沢山あるのだ、と話を進める二人の間に、真浩の居場所は無かった。いつもならば、従業員室を出て館内を徘徊するのだけれど……今日の真浩は、従業員室から出る事が出来ないのだ。千歳とはち合わせてしまう可能性のある危険地区に自ら足を運ぶほど馬鹿ではない。 「あ、そう言えば……」  だいぶ興奮が収まったらしい源次郎が、ふと真浩へ言葉を投げかけて来た。なに、と顔を向ければ、やっと腕から解放されたらしい浩登が大きく息をつく姿が視界の端に映る。 「四○一号室のお客さんが、真浩の事探してたッスよ」 「……四○一号室?」  無機質な数字を投げかけられ、真浩は首を傾げた。 「あれッス。飯田さんだったっけ?」 「……っ!」  不意打ちである。石橋を叩きながら歩く思いで千歳を避けていると言うのに、まさか源次郎の口から千歳の名前が出てくるとは思わなかった。思わず身を引いてしまった真浩に気付いていないのか、源次郎は「ヒョロヒョロのイケイケで~」と、彼の説明らしい言葉を並べたてている。 「ほんで、真浩はいつバイトに入るんだって言ってたッスよ。学校ある日は来ないから~って答えたんッスけど……あれ? なんで二人はここにいるんッスか? 学校、休みなんッスか?」
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