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 家に帰ったら昼寝をしましょうか、なんて贅沢な相談をしていると、少し離れた場所にある木漏れ日注ぐベンチへ、一組の老夫婦が腰を降ろす光景が視界に入る。 「仲良さそう……」 「そうですね」  ふと隣を見れば、浩登も同じ方向へ視線を向けて居たようだ。ニコリと笑みを零した浩登は、あの二人が羨ましく思ったのか、少しだけ体を寄せて真浩の手を握った。きっと、恋人が出来ればこんな感じなんだろうな……と。冷たい浩登の手を握り返して思う。自分と違って浩登はモテるから、恋人とこんな時間を過ごすチャンスだってあったはすなのに。浩登に彼女が出来た、と言う話は聞いた事が無い。 「浩登は、源さんが好きなん?」  なんとなく口から出た問いだった。学校内に浩登が想いを寄せる人間が居ないのであれば、校外か、と。そんな単純な思考から来た問いだ。浩登は驚いたように目を見開いて、「そんな訳ないじゃないですか」となんだか不機嫌そうな声で答えた。よほど源次郎の事が苦手なのだろう。源次郎はああ見えて頭は良いから、趣味や思考は似ているのだ、と浩登は言っていた。ただ、性格的に合わない、とも。 「好きじゃありませんよ……、あんな人」 「そか」 「急にどうしたんですか?」  真浩は少しだけ唸って、真っすぐベンチに座った老夫婦を見据えた。 「結婚って、なんやろうな?」 「また唐突ですね……」 「俺は結婚どころか、自分に彼女が出来る未来も予想できんのやけど、やっぱ好きな人とずっと一緒に居れるって幸せな事なんかなって……思ったり。ああやってさ、じいちゃんとかになっても楽しそうに生きれるんって、ちょっと……羨ましい」  仲睦まじく、路上を行き来する人々を見つめる老夫婦。いつの間にか真浩の目には、あの老夫婦が、千歳と見た事もない女性と重なって見えていた。『羨ましい』と思うのは、きっとあの二人の幸せじゃない。千歳の隣に居る女性はとても幸せなんだろうな、と思うと、自然に『羨ましい』なんて言葉が口からついて出てしまったのだ。
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