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「話は戻るが」 「うん……」 「俺は、真浩の事をもっとよく知りたいと思う。君が自由に動き回れる世界を、俺は作りたいんだ。だから、協力してくれないだろうか?」  「協力……」と、真浩は千歳の言葉を繰り返した。ああ、と頷いた千歳は、既に真浩の中にある答えに気が付いているのだろうか。真浩は自分の損得だけで行動を決める人間ではいが、今回の件は真浩にとっての『損』が大きすぎる。何が楽しくて、こんなにもモヤモヤと重たい鉛を抱えたまま千歳の傍に居なければいけないのだ。  真浩は答える。 「協力は、出来ない……」 「そうか」  そう言って、千歳は海へと顔を向けた。海鳥達がバタバタと羽ばたく青い空へ。これで話は終わりだろうか、と思った矢先。千歳は以外な言葉を口にする。 「俺と関わるな、とでも言われたか?」  一体、何の話だろうか、と。真浩は胸にある心辺りを探ってみるが見当たらず、首を横に振った。誰に言われた訳でもない。真浩は、自分の意思で千歳への協力を断った。それだけだ。けれど、千歳は……誰に「関わるな」と言われたのだと思っているのだろう。 「そうか……。ならば、考えておいてくれ」 「いや、考えるもなにもっ……」  ふと撫でられた頬。ゆっくりと滑っていく指先の感覚の中、酷く冷たい一部分が触れて、真浩は慌てて身を捩った。驚いたように真浩から距離を取った千歳は、真浩の視線にあるものに気がついたのだろう。キラキラとそこに輝く指輪。海風に晒されて、それはまるで真浩を拒むような、冷ややかな温度だった。 「すまん。冷たかったか」 「……びっくりした、だけ」  千歳なりに真浩を驚かせてしまった事を反省したのか、静かに右手を背中へと隠す。真浩が気にしているのは、指輪の温度なんかじゃないのだけれど。 「それ、ずっと付けとるな」  投げ捨てるような言い方になってしまった。わざわざ指輪の話題を出してしまった事への後悔が募るが、なんだか腹が立ったのだ。真浩とキスをしてしまった事実を恋人に隠そうとするならば分かるが、真浩に『恋人の存在』を隠す理由が分からない。
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