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「なんだ。君も有給か?」
小太りの脂ぎった上司に、あからさまに嫌な顔をされた。
「すみません。昨年に子供が産まれたもので、田舎の両親に正月くらいは顔を見せなくてはならくて……」
俺はいい訳をして有給届けを出すと自席に戻った。
上司の言い分もわかる。この間、年末年始休暇が終わったばかりなのだ。東京では。
昨年、夏に政府は道州制を導入した。
地方創生・地方分権を謳い、中央に吸い上げられていた税金が地方で使えると民衆に説明し、多くの国民は「今より良くなるなら、いいんじゃないか」と賛意を示したのだ。
それから半年、思いもよらない弊害が出ている。
「おい。お前も嫌味言われたか?」
同僚の木村が聞いてきた。
「いや、嫌な顔をされたが、嫌味は言われなかったよ」
「そうか、俺の時はぐちぐち嫌味を五分も言われたぜ」
「ははは。そりゃ大変だったな。君の所はいつが正月なんだい」
「うちは九州で半月早まったよ。もうすぐ二月ってことになるな」
今は松が明けたばかりの一月七日だ。東京では……。
道州制が施行されて、暦までそれぞれ独自に決められるようになった。
もちろん基本暦として今までの暦は通用するが。九州南部や沖縄では季節を前倒しして暦を作り、逆に俺の実家のある東北では半月遅らせたのだった。
残雪の残る新学期よりも半月遅らせた方が都合がよいとの事らしい。
「なあ、木村。両替はどこの銀行でもできるのか?」
「ん? それができないんだよ! なんでも銀行のシステムを作るのが間に合ってないらしいぞ。
近畿州は東京と経済的つながりが大きいからできるみたいだがな。ネットで調べてみろよ」
暦の他に面倒くさいのが貨幣の単位が変わったことだ。
東北州は刻という金銭単位になり、それぞれ紙幣や硬貨が発行された。一応、同等の価値であるが、商店などは大変な作業を強いられている。公共機関では州発行の貨幣でしか取り扱わないそうだ。
地方に行くたびに両替と言う面倒くさい作業が付いて来るのだ。
「なんだ!?『東北新銀行』と『よつばホールディング銀行』しか扱ってないのかぁ」
ネットで検索すると東北の貨幣に両替できるのは僅か二行だ。その二行ともこの近くにはない。
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