聖域

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「充」  法要が終わり会食の席、テーブルの隅にいた速水に伯父は声をかけた。 「はい」  居心地悪そうにしていた。伯父が気づくかもしれないと予想していた。 「元気にしていたか?」  厳しい父と違い、伯父は見た目も性格もやわらかい。 「…はい」  逃げるタイミングを失った。 「それだけか?」  嫌われているかもしれない。そう思った瞬間、速水の背中を冷たい汗がつーっと流れた。 「…体調はどうですか?」  周囲を気にしている。 「まぁまぁだ」 「そうですか」  息苦しい。 「どうした?」  罪悪感。 「…会えなくてごめんなさい」 「怒っていない。安心しろ」  傷心の伯父に何もできなかった。責めるな。感情が上がり始めた。 「きちんと生活しているのか?」 「はい。なんとか」 「誰かと暮らしているのか?」 「いいえ」 「彼女は?」 「いません」 「今はだろ?」 「い、今?」  速水は俯いていた顔を上げた。 「親父には黙っておく」  同居人の顔を思い浮かべた。男子高校生と暮らしている。 「隠し事か?悪かったな」  疑われた。
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