『明け方の眠り姫』

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 キッチンに戻ると、要くんはとっくに食器を洗い終え、勝手に冷蔵庫を開け、その中に頭を突っ込んでいた。 「要くん?」  要くんは後ろを振り向くと、私の顔を見て頬を緩めた。 「……やば。夏希さん、ちょーかわいい」 「んなわけないでしょ。私、すっぴんだよ」  要くんの手前、ほんのちょっとだけ迷ったけれど、顔を洗い終えた私は、そのまますっぴんでいることにした。  泣きはらした目が腫れていたけれど、家にいるときはなるべくすっぴんでいたいのだ。メイクも、アクセサリーも、余計なものは全部脱いでいたい。 「しかも上下スエットだし」 「これが一番楽ちんなのよ。家の中でまで気取っててもしょうがないでしょ?」  要くんには、泣いてぐちゃぐちゃな顔を見られた上に、汚部屋まで曝したのだ。今さら取り繕ったって仕方ない。
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