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目を開けると、私は真っ白な世界に沈んでいた。
「……雪?」
ゆっくりと手を伸ばせば、空から幾千万の雪の欠片が私の身体に降り注ぐ。
早く起き上がらなければ、このままではいずれ雪の中に埋もれてしまう。
――でも、それもいいかもしれない。
だって不思議。少しも寒くないし、寧ろ心地いい。
全て忘れて、雪に溶ける。その誘惑に負け再び目を閉じると、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
『……夏希さん』
――あなたは、誰?
『やっと……見つけた』
切なげな声に胸が軋む。
その声の正体を確かめたいのに、辺りを舞う雪が邪魔をして顔を見ることも叶わない。
差し出された手に手を伸ばす。
あと少し。もう少しであなたに届くのに。
一瞬、差し込む光が二人を遮ったかと思うと、真っ白だった世界は全て闇に落ちた。
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