『明け方の眠り姫』

2/33
前へ
/37ページ
次へ
 目を開けると、私は真っ白な世界に沈んでいた。 「……雪?」  ゆっくりと手を伸ばせば、空から幾千万の雪の欠片が私の身体に降り注ぐ。    早く起き上がらなければ、このままではいずれ雪の中に(うず)もれてしまう。  ――でも、それもいいかもしれない。  だって不思議。少しも寒くないし、寧ろ心地いい。  全て忘れて、雪に溶ける。その誘惑に負け再び目を閉じると、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。   『……夏希(なつき)さん』  ――あなたは、誰? 『やっと……見つけた』  切なげな声に胸が軋む。  その声の正体を確かめたいのに、辺りを舞う雪が邪魔をして顔を見ることも叶わない。  差し出された手に手を伸ばす。  あと少し。もう少しであなたに届くのに。  一瞬、差し込む光が二人を遮ったかと思うと、真っ白だった世界は全て闇に落ちた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

627人が本棚に入れています
本棚に追加