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「あ、夏希さんおはようございま……」
入り口に私の姿を認めて、いつものようにカウンターの中から飛び出して来た綾ちゃんが、私の顔を見るなり足を止めた。
「夏希さん、本当に大丈夫なんですか?」
「ん、いつも通り。万事OKよ」
そう答えて、一ミリの説得力もないであろう笑顔を返す。目の下のクマは、どんなにコンシーラーを重ね塗りしてもとうとう隠し切れなくなった。
「夏希さん、今日も珈琲だけですか?」
「うん、いつものやつで」
「……わかりました」
心配そうに私の覗き込む綾ちゃんを、満面の笑みで有無を言わせず追い払う。
『ごめんね、綾ちゃん』
しょんぼりと項垂れてオーダーを伝えに行く綾ちゃんに向かって、心の中で密かに手を合わせた。
私はたぶん、綾ちゃんやオーナーの一瀬さん、そしてパティシエの片山くんにまで心配をかけている。ここで珈琲を飲んでいると、毎日三人がかわるがわる様子を見にやってくる。
私に気を遣っているのか、三人とも詳しいことを聞き出そうとはしない。でも私に元気がない理由に、彼らはたぶん気がついているはずだ。
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