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それに要くんが消えてからというもの、私は食欲まで失くしてしまった。おかげで、買いだめしておいたカップ麺も一向に減らない。あんなにしょっちゅう食べてたのに、大好きなラーメンがちっとも美味しく感じないのだ。
要くんの手料理に比べたら、どんな料理も味気なく感じてしまう。知らぬ間に、私は彼に胃袋まで掴まれていたらしい。これは、思っていた以上に重症だ。
いいかげん、こんな日々から抜け出さなくちゃ。そしてちゃんと自分の力で、眠りも食欲も取り戻す。
大丈夫。要くんが現れる前は、ちゃんと自分一人でやれてたじゃない。
「綾ちゃん、ごめん。やっぱりオーダー変えてもいいかな」
ずっと迷っていたけど、今、覚悟を決めた。でも行動を起こす前に、まず腹ごしらえをしなくては。
「夏希さん、モーニングお待たせしました」
「ありがとう、綾ちゃん」
目の前には、ナイフを入れた途端、卵がとろりととろけるエッグベネディクト、瑞々しい朝採れの有機野菜が並んだサラダ、ミューズリー入りのヨーグルト。そして、鮮やかな山吹色のボウルに入った、たっぷりのカフェオレ。
毎日珈琲ばかりで干からびかけていた身体中の細胞が、目の前の食べ物を全力で欲しがっているのがわかる。
「いただきます!」
久しぶりのまともな食事に身体が驚いてしまわないよう、一口ずつゆっくりと味わいながら、私は結構な時間をかけて、このカフェ特製の朝食を楽しんだ。
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