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五年前、この街で和史と過ごしたのは、ほんの一週間ほどだった。
和史が私を観光に連れ出してくれたのは初日のルーブルだけだったので、あとはずっと、デッサンに出かける和史の後をついて回った。
早朝のカフェにたむろする人々、公園のベンチで身を寄せ合う恋人たち、アコーディオンを奏でる大道芸人、木陰で読書するパリジェンヌ、*パサージュの物売り。
人が好きだった和史は、パリにいても、市井の名もない人々ばかりを好んで描いていた。
パリの街のあちこちに和史と過ごした夏の記憶が散らばっていて、街中を歩くだけできっと私はつらくなる、……そう思っていたのに。
気がつけば私は、パリのどこを歩いていても、和史とは違う男の面影を探していた。
セルジュたちと夜のカフェにいても、美術館に入り大好きな絵の前にいても、ぼうっと橋からの景色を眺めていても。
どこにいても、私は要くんの姿を探している。
『夏希さん、見つけた!』って言って突然目の前に現れて、あの人懐っこい笑みを浮かべて、私を抱きしめてくれるんじゃないかって期待している。
――こんなふうになるはずじゃなかったのに。
*パサージュ:19世紀に造られたアーケード付き商店街
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