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いつの間にか降り出した雪に足を取られながら、アパルトマンへと続く曲がりくねった坂道を歩いた。
『夏希さん』
脳裏に懐かしい声が響いた気がして、思わず足を止めた。
「いやだ、本当に重症だわ。幻聴まで聞こえるなんて……」
「夏希さん!」
違う。幻聴でも、もちろん幻視などでもない。坂道の上から転がるようにして、要くんが走って来る。
「見つけた!!」
そう言うなり、要くんは私の身体に飛びついて、私の存在を確かめるようにきつく抱きしめた。
懐かしい要くんの匂いに包まれ、ふいに涙腺が緩む。雪が降っているというのに、今日も要くんは手袋をしていなくて、私に触れる指先は氷のように冷たかった。
「か……要くん? なんで……」
「なんでじゃないよ」
わけがわからずにいる私の両肩を掴むと、要くんはぐっと顔を寄せ、私に強い視線を向けた。
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