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要くんがなぜ、一度私と距離を置こうと思ったのかはわからない。でも私には、今目の前で起きていることが全てだ。
私は、こんなに遠い場所まで私を探しに来てくれた、今のあなたを信じたい。
「ごめん、もう一人にしない」
要くんの指先が、眠れぬ夜の証を愛おしげに撫でる。
「……好きだよ」
ようやく、聞けた。こんなにも私は、彼からの愛の言葉を欲していたのだ。喜びで心が震えた。
「要くん」
愛しい人の、すっかり冷たくなってしまった手を引き寄せ、震える指先に口づける。
暗い闇に沈みそうになっていた私を、明るい場所へ引き上げてくれたのは要くんだ。そう思ったとき、いつか見た夢の光景がよみがえった。
――あれは、夢の中で私を救ってくれたのは、要くんだったのね。
「私も……あなたのことが好きよ」
もう二度と、あなたが私を探して、迷ったりしないように。今度こそ、素直な気持ちを言葉に乗せる。
子どものように無邪気な笑顔を向けるあなたに精一派背伸びをして、冷たい唇にキスを落とした。
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