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夕方から降りはじめた雪は、夜が深まるとともに、ぬかるんだ街を再び白く染め上げていた。
暖かく静かな部屋に、ストーブに置いたやかんが立てるしゅんしゅんという音だけが響いている。
「……夏希さん、もう寝ちゃう?」
「ん……」
身じろぎもできないほど疲れ果てた私は、背後から要くんの匂いに包まれ、薄れゆく意識の中でやかんの口から立ち上る湯気をぼんやりと眺めていた。
部屋へ入るなり、要くんは私を抱き上げ乱暴に寝室のドアを開けた。
「ちょっと要くん、重いから下ろして!」
「いやだ」
要くんの瞳の中にいつもとは違う光を認め、驚いた私は思わず息を呑んだ。
「夏希さん、まさかとは思うけど……はじめて?」
「なっ、そんなわけないじゃない!」
「でも、ずっとあいつのことが好きだったって……」
そこまで言いかけて、要くんはぎゅっと眉根を寄せた。
「やめた。どっちにしろ面白くない」
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