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「夏希さん、マンデリンお待たせしました」
「ああ、ありがとう」
毎朝一杯目は苦みの効いたマンデリンと決めている。低血圧な私には、朝はこれでないとダメなのだ。
「……あれ、夏希さんひょっとして体調悪いです？」
テーブルにカップとソーサーを置きながら、綾ちゃんが私の顔を覗き込んだ。彼女の若々しい、まるでゆで卵みたいにつるんとした肌に圧倒される。
「大丈夫。ちょっと寝不足なだけなの」
「そうですか。顔色悪いから、びっくりしちゃった」
お冷を置き、カトラリーをセットし終えた綾ちゃんは、ぴょこんと頭を下げカウンターへ戻って行った。
このところ、なかなか寝付けない日が続いていた。
……原因は自分でもわかっている。長い間想っていた相手が、もうすぐ結婚式を挙げるのだ。
画家である彼と、彼のアートモデルをしていた恋人のことは、私もずっと見守ってきた。
互いを想い合っているのに一歩を踏み出せずにいる二人のことをもどかしく思っていた私は、二人の想いが通じるよう、手助けのようなことまでした。
自分の気持ちには蓋をした。
だって私は、誰よりも彼の幸せを願っていたから。
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