恋文

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 恋文。  それは己の想いを文にして告げる至高の芸術。  それは私と貴女とを結ぶ架け橋と成り得る可能性を秘めている。  嗚呼!恋文!  このような熱い想いを胸に遂に恋文を書き終えた私は瀬戸雨の自宅へと向かった。  瀬戸雨。我が友人であり、この辺りでは類を見ない美人である。女性宅へ夜分にお邪魔するのは失礼極まりないのかもしれない。常識に欠ける。と云ってもよい。  だが、私と瀬戸雨は常識では計れないそんな関係なのだ。(私としてはそう思っているのだが、瀬戸雨には違う意見があるかも知れない。何しろ人間の意見は十人十色と云うではないか)  瀬戸雨の住まうマンションに着いた私はインターホンを押して暫く待つ。いくら常識を超越した仲と云えども礼儀を重んじるそれが私だ。壁谷塀郎だ。  しかし何故だろう?インターホンを押して五分は待つのに何ら反応が無い。いくら礼儀を重んじる私でもこれでは堪忍袋の尾が破裂してしまう。扉を蹴破って浸入してしまいたくなる。…いや、間違えた。私は本当の所は「もしかすると瀬戸雨は不在かな?」と言ったのであった。そうして、ドアノブを回して引いてみたのであった。  扉は何不自由無く開いたので、中へと入って行くと瀬戸雨が居た。瀬戸雨はリビングでテーブルに突っ伏して眠っていた。  ふむ。不用心な女である。家に居た所で危険な事が起こり得る現在で、このような蛮行に至るとは、な。厳重な注意を掛けると供に自らの要件を果たすという一石二鳥の理の名の下に私は彼女を起こす事にした。  「おい、瀬戸雨。不用心だぞ。不用心だぞ。不用心だって言っているだろう?」  そう言って瀬戸雨の肩を揺するのだが、「うーん」「あーん」などと言うばかりで起きない。私は「うーん。ではない。あーん。ではない。起きろ」と呼びかけるのだが起きない。  私は、何かおかしい。そう思った。  現在の時刻は午後九時過ぎ。二十歳になったばかりの人間が熟睡する時間帯では無い。  それによく考えてみればこの部屋に入った時から一種の異様さを感じていた。この異様さの正体はいったいなんだろう?  私は辺りを見回して見るとその異様さの正体を目の当たりにした。  …そう、アルコール飲料であった。恐らく彼女は平日の昼間から酒を飲み元気にはしゃいでいたが、全身がアルコールに侵された彼女は深い睡眠へと身を投じているのであった。  
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